原告は生物学的には男性だが1999年ごろ性同一性障害と診断され、2008年ごろから女性として私生活を送るようになった。
原告は血液中における男性ホルモンの量が同年代の男性の基準値の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた。また、健康上の理由から性別適合手術は受けていない。
10年7月、原告の性同一性障害に関する同僚向け説明会が開かれた。担当職員には、原告が勤務先フロアの女性用トイレを使うことに、数人の女性職員が違和感を抱いているように見えた。
原告には勤務先とその上下の階の女性用トイレ使用は認めないこととした。その後、他の職員とトラブルは生じていない。
原告は13年、女性用トイレを自由に使わせるよう行政措置を求めたが人事院は15年5月、認められないと判定した。
まず、原告は「体は男性、心は女性」という、LGBTQのT(Transgender:トランスジェンダー)に該当します。
女性ホルモンの投与は受けていましたが、健康上の理由から性別適合手術は受けていません。
性自認が女性なので、日常的に男性用トイレを利用することに違和感を覚えています。このことから、女性用トイレを利用することの要望を出したところ、部署内で女性用の服装をすることや女性用トイレを利用することについての説明会を開催しました。
その際に同部署の女性がその件について違和感があるように見えたため、部署から近いトイレではなく、少し離れたトイレを利用するように伝えました。
その後原告は自身の名前を女性としての名前に変更しています。
そして原告は経産省に対し、自身を女性職員として、他の女性職員と同様の扱いをするように求めましたが、人事院はいずれも認められないとしました。
そのため原告は提訴に至りました。
【法廷意見】
原告は自認する性別と異なる男性用トイレか、離れた階の女性用トイレを使わざるを得ず、日常的に相応の不利益を受けている。一方、同僚への説明会後、原告のトイレ使用を巡るトラブルはない。人事院判定までの間、見直しが検討されたことはうかがわれない。
遅くとも人事院判定の時点で、原告が女性用トイレを自由に使うことによるトラブルは想定しづらく、原告に不利益を甘受させるだけの具体的事情は見当たらなかった。
人事院の判断は他の職員への配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠き違法だ。
【長嶺安政裁判官の補足意見】
経産省の処遇は、急な状況変化に伴う混乱を避ける激変緩和措置とみることができ、説明会の時点では一定の合理性があったと考えられる。しかし同省には、この処遇を必要に応じ見直す責務があった。自認する性別に即し社会生活を送ることは重要な利益だ。
【渡辺恵理子、林道晴両裁判官の補足意見】
経産省は説明会で女性職員が違和感を抱いているように「見えた」ことを理由に、原告の女性用トイレ使用を一部禁止し、その後も維持した。合理性を欠くことは明らかだ。激変緩和措置として一部禁止するとしても、女性職員らの理解を得るよう努め、次第に軽減・解除すべきだった。
【今崎幸彦裁判長の補足意見】
今回のような事例で、他の職員の理解を得るためどのような形で、どの程度の内容を伝えるのかといった具体論は、プライバシー保護との慎重な衡量が求められ、難しい判断を求められる。
事情はさまざまで一律の解決策にはなじまない。現時点では本人の要望と他の職員の意見をよく聴取し、最適な解決策を探る以外にない。今後、事案のさらなる積み重ねを通じ、標準的な扱いや指針、基準が形作られることに期待したい。
今回の判決は不特定多数が使う公共施設の使用の在り方に触れるものではない。それは機会を改めて議論されるべきだ。
法廷意見や、裁判官らの補足意見は上記のようになっています。
注意していただきたいのは、「トランスジェンダーの人間に対して必ずトイレ等を配慮しなければならないということではない」ということです。
性の問題は個々人で事情が異なり、また、同じ種類の性だとしても職種や業態で行うべき処置が変わってきます。
そのため、今回の判決を全てのジェンダートイレ問題に用いるのは間違っていますが、考え方についてを応用させると良いでしょう。今崎裁判長も上記太字のように述べています。
繊細な性の問題が頻繁に議論され始めて久しいですが、これらの問題は決して我々も無関係ではありません。
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